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神奈川県横浜市 「横浜税関庁舎 クイーン」

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『キング』神奈川県庁舎と同様、大正十二年(一九二三)の関東大震災によって大きく損壊した前税関庁舎にかわり、昭和九年(一九三四)に現在の横浜税関庁舎、通称「クイーン」が建てられました。その間の約十年、平屋のバラック建物で税関業務を行っていたこともありましたが、経済の困窮著しい昭和初期にあって、新庁舎建設が失業者救済も兼ねていたと言われています。

 

税関の堅いイメージを覆す、優雅で気品のあるイスラム寺院風のドームを戴いた塔屋が、横浜税関庁舎最大の特徴。躯体と異なる存在感を放つ青緑色のドームにもかかわらず、そこにあることが当然のように建築物全体を引き締めています。また、躯体は鉄骨鉄筋コンクリート造五階建ての重厚な佇まい。そこに優美なロマネスク建築特有の装飾が、派手過ぎない程度に彩りを添えています。この建築物全体のバランスは、理論ではじき出すことのできないものだと分かるのにそう時間はかからないでしょう。まるで冠を戴く女王の風格、まさにクイーン。

 

設計は、後に国会議事堂の設計にも携わった吉武東里。重厚さとロマネスク建築の繊細さとの巧みな融合は、吉武の面目躍如といったところでしょうか。

面白いエピソードがあります。当初、横浜税関庁舎は、神奈川県庁舎より若干低い四十七メートルの予定だったといいます。しかし当時の税関長の「日本を代表する国際港の横浜に建てる国家機関の税関庁舎が、県の庁舎より低いとは何事だ!」との一喝で、最終的に県庁舎より若干高い五十一メートルとなりました。小競り合いと言えばそれまでですが、結果としてこれら名建築が現存し今も活躍していることは、国際港横浜としての誇りが脈々と続いているということでもあるのでしょう。

 

竣工から七十年以上も経過し、老朽化・狭隘化してきた横浜税関庁舎。平成十三年(二〇〇一)に保存増築工事が始まりました。街路に面する部分と塔屋を残しながら内部を補修増築するという大胆な方法が採られ、工期中もできるだけ景観を損なわない配慮がなされました。そして平成十五年(二〇〇三)、竣工当時の外観を保持したまま新しい機能を持つ庁舎として蘇ったのです。この保存増築工事は、歴史的建築物の保存と有効活用を両立させた好例として大きな評価を得ているといいます。

 

建築物は使われてこそ華だと思います。取り壊しなどはまた別の話ですが、たとえ保存されても、骨董品のような扱われ方に対する疑問は禁じ得ません。建築物にとっては、歴史的観光資源であり、かつ現役の施設であることがこの上ない幸せなのではないでしょうか。そしてそれを体現する横浜税関庁舎を見ていると、とても嬉しくなるのです。

海から見て塔が建築物の中心に見えるよう設計されているため、正面エントランス側からは塔が右にずれて見えます。

■横浜税関庁舎
■竣工:1923年
■設計:吉武東里
■住所:神奈川県横浜市中区海岸通1-1
■ホームページ:http://www.customs.go.jp/yokohama/

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