建築探訪・写真・ウェブなどに関して徒然書き綴る私的実験室的なサイト
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眺めるだけではもったいない 「旧篠原家住宅」

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眺めるだけではもったいない

JR宇都宮駅西口を出て、北へ三分歩くと、市街地の縁に一見場違いとも思える黒い蔵造りの住宅が鎮座しています。
何、これ? と思ったことがある方も多いでしょう。
そう、それが「旧篠原家住宅」です。
栃木を代表する旧家のひとつと言われており、国の重要文化財にも登録されています。
名前と実物が一致していなくても、実はいろいろな機会でその名前を耳にしているはずです。

江戸時代末期より醤油醸造業を営む県内有数の豪商であった篠原家が、明治二十八年に当時で三万円(現在の貨幣価値に換算すると約五億円)を費やして建設した店舗併用の町家住宅です。
栃木県特有とも言える大谷石張、そして黒漆喰を塗ったこの土蔵造りは、重厚で堅牢な存在感を放つとともに、当時を知らない人にも、どこか懐かしい心持ちを与える魅力を持っています。

立地が良いこともあり、建物自体を見知っているという方は大勢いるかと思われますが、その中で実際に建物の前に立ち、足を踏み入れたことのある方はどれだけいるでしょうか。
正直、ホテルや百貨店など高層ビル群に挟まれてたたずむ黒い姿を遠巻きに眺めて、たいしたものではないと判断する方も少なからずいると推察しますが、それは大きな間違い。決して侮ってはいけません。

遠くから眺めたときや、車などで通りかかったときに目に映る旧篠原家住宅は、確かに小さく見えるとおもいます。
しかし本当は思っている以上に大きいのです。
徒歩で近づいて行ってみれば、徐々にその大きさに気づくはず。
そしてさらに近づくにつれ、その黒い塊を彩る繊細な造作の数々が見えてくる頃には、この建物に対する印象は大きく変わってくるはずです。

門戸をくぐり内部に入ると、いきなりそこは外の喧噪と無縁の和の空間。
明暗のコントラストが効いた日本家屋独特の空間とそれらを形作るディテールが、心の奥に眠る「日本人」を喚起させます。
ソファとベッドで育った人が、なぜこの家に郷愁を感じるのか不思議でなりませんが、そこは理屈でない本能に近い部分が作用してるのでしょう。

これまで百年以上かけて残してきた意義があり、そしてこれからも残す価値がある建物。
この先も末永くそこにいてもらいたいと思える、そんな愛すべき建物なのです。

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■旧篠原家住宅
■竣工:1895年
■住所:栃木県宇都宮市今泉1-4-33

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