建築探訪・写真・ウェブなどに関して徒然書き綴る私的実験室的なサイト
訪れたさまざまな建築物やランドスケープについて気まぐれに綴っています。
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栃木県宇都宮市 「カトリック松が峰教会」

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確か、外国の写真集だったと思います。
そこには老練の消防士が無造作に差し出す両手のひらを、見事な接写で撮影した写真。一組の両手のひらが見開きの二ページ全体を占領していました。
熟練した消防士達の手のひらは、雨風に晒された溶岩さながらに隆起し、敷き詰められた石畳のごとく皺を刻む。その人が経てきた年月、自信と真摯さを物語る相。
大谷石に対する印象を求められたときに、私はこの話を比喩に用います。無骨で頑なな表層でありながら、懐古的でゆとりのある色合い。堅さと柔らかさの対極を内包した、ある意味非常に人間味のある表情は、まさに体温を宿したマテリアルといっても過言ではないでしょう。

古くから家屋や蔵の建材として親しまれ、現代においてもさまざまな建築物に用いられている大谷石。では何故このように伝統あふれる素材となり得たのでしょうか。
大きな理由として、ほかの石材よりも柔らかい性質のため、建設工事が手作業だった時代にも加工が容易であったことがいえます。また「みそ」と呼ばれる褐色の成分によって、暖かみのある絶妙な色合いを演出しています。それにしても「みそ」とはよく言ったもの。  これらの理由だけでも、大谷石がいかに皆から親しまれたかを伺い知ることができます。
宇都宮の建築を、大谷石の存在なしには到底語ることはできません。「宇都宮聖公教会」「宇都宮市城山公会堂」そして昭和五十四年に取り壊された「宇都宮商工会議所」‥など、さらに民家や倉庫を含めると、もう数え切れないほどの数にのぼります。そしてその中でもひときわ美しく、すでに宇都宮のモニュメンタルな建造物としての貫禄もある「宇都宮カトリック教会」、通称・「松が峰教会」。

今をさかのぼること七十年前、時は昭和七年。前年には満州事変が勃発し、徐々に世の中が不安定になっていった時代です。現在の松が峰教会はそんな時勢のなかで建てられました。設計は教会・学校建築等で有名なマックス・ヒンデル。この松が峰教会は、彼の代表作の一つであると共に、彼が設計した最後の教会建築作品であり、事実上日本に残した最後の作品としても知られています。  今でこそ周りにビルディングが建ち並び、市街地の風景に埋もれている感がありますが、完成当時、周りは雑木林と平屋の民家しかありませんでした。そこに20メートル超の双塔がそびえ立っていたということは、当時かなりの異彩を放っていたのでしょう。 
構造は鉄筋コンクリートで、その躯体を大谷石で覆う造りです。当時はもちろんクレーンなどもありません、足場で全体を囲み、石工が石材を担いで登っていたといいます。完成まで一年以上も費やし、出来上がった当時はかなりの話題だったようです。
教会の内部は、ファザードとはまた違った雰囲気があります。床は堅木が張られ、重厚さを醸し出しています。内壁は大谷石と漆喰によってシックで落ち着いた演出、そして壁に掛けられた照明がその演出に彩りを添えて、非常に壮麗な空間を表現しています。 
完成から現在まで七十年。さまざまな事件や出来事を経てきました。第二次世界大戦当時は、金属不足のため鐘を供出、終戦直前は空襲により半壊、そして戦後の復旧。その後も幾多の改修を繰り返し、今現在の姿があるのです。
大谷石にて覆われた欧風建築、荘厳と繊細を併せ持つ松が峰教会を見ていると、絵画に全てを賭けた、日々の研鑚によってその手はまるで炭坑夫の様であったといわれるヴィンセント・ヴァン・ゴッホの利き腕のことを、少しだけ思い出します。

私はカトリックの信者ではありませんので、その専門的なことは解りませんし、カトリックに造詣の深い方々とはまた異なった汲み取り方をしているかもしれません。ですが、ただ建築に興味のある者として見るだけでも、非常に美しく価値があると思えるのです。

■カトリック松が峰教会
■竣工:1932年
■設計:マックス・ヒンデル
■所在地:栃木県宇都宮市松が峰1-1-5
■ホームページ:http://www2.ucatv.ne.jp/~matumine.sea/

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